「ただいま」
自宅のドアを開け、暗い玄関の電気をつける。一応2LDKの、こぢんまりとしたマンション。家の中から返事はない。
美貴は部屋で勉強でもしているのだろう。家の中はしんと静まり返っている。
父親はいない。小学校二年のときに両親が離婚して以来、年に何度かしか会うことはないような関係。
母親は看護士で、夜勤も多く、普段家にいるのは俺と姉の美貴の二人だ。
俺に割り当てられているのは六畳の一部屋で、鍵はない。ドアノブの調子も少し悪い。
美貴の部屋から少し明かりが漏れているのを確認してから、台所に用意してある晩飯を持って自分の部屋のドアを開けた。
青白い光に包まれた、小さな空間にゆらゆらと光が揺らめいている。
シンプルなベッドと親父が使っていたデスク、締め切ったカーテン。青白い光を放っているのは大小合わせて4つの水槽だ。
今日も一日、頑張ったご褒美にこの部屋に帰る。出迎えてくれるのは、俺が作った水の中の楽園。俺の帰る時間帯にぴったりライトアップされるように、水槽に取り付けたライトのタイマーをセットしてある。
デスクに晩飯のトレイを置いて、パソコンの電源を入れる。目の前の白い壁には青い光が波打つように映し出されている。