大学の近くに下宿している俺に会うために、森田はわざわざ授業が終わってすぐのキャンパスまでやって来た。
ちょうど就活が一段落した頃で、俺の大学生活も残りわずかとなった、やけに晴れた日のことだった。

ただでさえ目立つ体格に加え、野球好きであればすぐに顔と名前が一致する程度のちょっとした有名選手となっていた森田は、通り過ぎる大学生たちからかなりの注目を集めている。

右手を挙げて俺を呼ぶ森田の、一見かっこいいけれど中身はアホっぽい笑顔はかなり懐かしい。

「テレビで見ました。すごいっすね」

「まぁ、やっとなんとかここまで来たけど、これからが勝負やからな」

高校時代と変わらない表情で、森田が笑う。

「で、わざわざ俺に会いに来てくれた理由ってなんですか」

とりあえずと入った喫茶店で、頼んだアイスコーヒーを啜る。

「美貴ちゃんのことやけど」

俺はぶっとコーヒーを吹き出した。

「まだ姉貴のこと好きなんすか?!嘘でしょ」

「なんで嘘つかなあかんねん。あほか」

まさかまだ姉貴のことを森田が想っているなんて知らなかった。
俺は四年前、ミキのブログを読んで知った美貴の気持ちも、森田に伝えてはいないのに。

「交換条件や」

森田はジャケットの内ポケットから、何かの封筒を取り出した。

「この中には、お前が欲しくてたまらんもんが入ってる。美貴ちゃんに会わせてくれたら、これをお前にやる」

真剣な眼差しを向けられ、封筒を受け取る。
中身を見ると、それはシンガポール空港行きのチケットだった。思わず目を見張る。

「どうしても今日、美貴ちゃんに会いたい。頼む」

強引で、相手にノーと言わせない迫力は、高校時代とちっとも変わっていなかった。
そう、初めて言葉を交わしたあの日と同じ。