夜10時、高校生が働けるギリギリの退勤時間。
うちの店の営業時間は午後1時から夜中の1時まで。
夕方のうちに水替えなどのメンテナンスを済ませておいたから、あとは店長ひとりでも店は十分営業できる。
アクアリウムショップは午後から開店し、夜遅くまで営業しているという店が多い。
夕方までは冷やかしのカップルや女性客もたまには来ることもあるけれど、アクアリウムショップの主な客層は成人男性だ。働いている男が仕事帰りに寄ることが多いことと、アクアリウムの本当の魅力は暗くなってからしかわからない、というのも理由のひとつ。
ライトアップされた水槽の中を泳ぐ鮮やかな生きものと、ゆらゆら揺れる水草の緑のコントラストの美しさは夜になってはじめて本来の魅力を発揮する。
「お疲れ様でーす」
「お、もうそんな時間か。気を付けて帰れよ」
店長に送り出され、店を出る。
帰り際に振り返って眺める店の中は、出勤してきたときとはまったく印象が違って見える。
青白く照らされた水の中はまるでひとつのアートみたいで、たくさんの水槽が並ぶ店内は光る美術館みたいだ。
きらきらと揺らめく夜の水槽をもうすこし見ていたい、後ろ髪を引かれるような思いで家に帰る。