俺は泣かない。
だってまだ、菜々子と別れたつもりなんてないんだから。
だけど、なぜだかわからないけれど、俺の頬に生暖かい何かが伝う感触があって、それを気づかないふりをするみたいにカットソーの袖で拭った。
マウスを動かしてナナのブログを閉じる。
ナナがもう日記を書かないのなら、もう見ることはないだろう。俺に菜々子の心のなかを覗かせてくれた、ナナの日記。
ちょっと悩んだ末に、お気に入りから削除することにする。画面を移動するカーソル。
その瞬間、何かにちょっとだけ違和感を覚えてカーソルを戻す。
パソコンの画面での違和感は、自分にしかわからない。
そう例えば、誰かが勝手に、俺のパソコンを触って何かをしたときのような違和感は。
違和感の正体にはすぐに気がついた。
ずっと更新もチェックもしていなかった、放置していたはずの俺のブログ。
俺がミキとして書いていたブログ『Miki's aqua room』。
ナナがミキに恋愛相談をしてきてから、一度も見ていなかったブログ。
そのログイン画面がまるで、つい最近開いたみたいな状態になっている。
不思議に思ってブログを開く。
ブルーを基調にしたトップ画像に白抜きの文字で現れる〈Miki's aqua room〉。
胸騒ぎの正体にはすぐに気がついた。
放置していたはずのブログが、更新されている?


