今になって思ってみれば、そうだったんだと納得できるような彼女の行動はいくつもあった。

普通コースの中ではかなり頭が良い方だったとはいえ、国公立を狙う特進コースに編入するほどではなかった彼女だが、英語だけは抜群に、もうずば抜けて成績が良いのは学年でも有名なくらいだった。

リーディングもライティングの授業も一番で、校内にいるネイティブの先生とも普通に会話できるくらいの英語力。
だけど、たまに俺と進路の話になってもなぜか、いつも曖昧な答えしか返ってこなかった。
こんなに英語ができるんだから、外大とか外国語学部狙いなのって聞いたこともあったけど、彼女は頷かなかった。

「こんな程度じゃだめだよ」

って彼女はいつも言っていた。

だけどそれは、きっと、謙遜とかじゃなかった。
いつかこうなることがわかっていて、向こうでも生活できるくらいの英語力を身に付ける努力をしていたってこと。
もうそれは、俺なんかと仲良くなるよりずっとずっと前から、彼女はわかっていたことだったんだ。

「いつまで?いつまで向こうに行くんだよ」

自分の口調が少し荒っぽくなっていることに気付く。

「いつまでかは、わからない。馴染めたら、ずっとかもしれないし、向こうで進学できるレベルになれるかどうかは、まだわからないから……」

「……菜々子だけ、日本にいるってことは、出来ないわけ?結婚するからって、菜々子まで向こうに行くなんてそんな……」

「わたしも、いろいろ考えたんだよ。とくに、慶太くんと付き合ってからは……日本にいたいって思ったこともあった。だけどわたし、やっぱり守りたいの、お母さんを」

それを言われたら、俺はなんにも言い返せない。
どうしようもない寂しさと、でも、嫌われたってわけじゃない、他に好きな人が出来たわけじゃない、それだけで、一瞬救われたような気持ちにもなった。

だけど、俺にはもう、どうすることも出来ない事実がそこにある。

もう目の前に、菜々子との別れはすぐそこまで来ている。