バイト中にもかかわらず、俺のポケットの携帯はじゃんじゃん鳴っている。
ここのバイトはそんなことでうるさく言われないし、電話が鳴ったら遠慮なく出ていいと店長からは言われている。
どうせグループの誰かが無意味なメッセージかスタンプでも連打してるんだろうと思いながら、ポケットの携帯を取り出した。
メッセージは中岡からで、無意味に短文で何度も送信されていた。
〈なあ〉
〈きょう七瀬さんと帰ったらしいな!〉
〈なんでお前!?〉
〈まさか付き合ってる?!〉
〈説明しろよーーーー〉
〈おい〉
最後に変なスタンプで締めくくられたメッセージ。
めんどくさいやつ。と思うけれど、しつこく送ってくるあたりいかにも中岡らしい。
ここで既読スルーにするとそれこそ面倒なことになるからわざと、〈教えねー〉とだけ返信しておく。
中岡の顔を想像して笑いが込み上げる。
俺が七瀬さんと付き合えば、たちまち学年じゅうが大騒ぎになるだろう。
あの帰り道を通るやつなんて山ほどいることくらい、俺にだってわかっている。
七瀬さんが、誰でもよくて俺と帰ったわけじゃないってことも。
「やっぱもったいなかったかな…」
ちょっと後悔しながら、ポンプを使って水槽の水替えに勤しむ俺。
ポケットの携帯はあいかわらずじゃんじゃん鳴っている。
中岡だって、俺が七瀬さんよりアクアリウムを選ぶなんてきっと思わない。俺だって、本当はちょっと迷ってる。