赤と白の鮮やかなレッドチェリーシュリンプの水槽には、バックに流木に活着させた濃い緑のアヌビアスナナや明るい緑のアマゾンソード、手前には緑の絨毯みたいなグロッソスティグマが敷き詰められている。
まるでエビの楽園のようなその水槽は、店長が俺に水草水槽の作り方の基本を一から教えるために目の前でレイアウトしてくれたものだ。
「レッチェリ、増えましたね」
「このうようよいる感じがいいだろ。エビ王国」
店長は嬉しそうに水槽を眺めている。
指先に乗るほどの小さな小さなエビであるレッドチェリーシュリンプは、小さすぎて魚に食べられてしまうこともある。だからエビだけの楽園を作って展示しているのだ。
もちろん立派な売り物で、一匹からでも販売しているし、こんなに小さいくせに目が覚めるような鮮やかな赤と白のコントラストで、かなり人気のある品種だ。
レッドチェリーシュリンプの水槽の隣には、豪華な尾びれを見せつけるように優雅に泳ぐ真っ青なベタ。
喧嘩っぱやいベタは、基本ひとつの水槽に一匹でしか飼うことができない。
それでもこんなにも人気があるのはその強さとたくましさ、一匹でも迫力のある見た目の華やかさのおかげだ。
一匹でしか飼うことができないはずのベタさえも、店長の手にかかれば飼い慣らして他の魚と一緒に泳がせることも出来る。店に来たお客さんは、他の魚と同じ水槽で一緒に泳ぐベタを見て、えっと驚くことも多い。
俺だってそうだ。
「魚を飼い慣らす」なんて、ここで働くまでは想像すらしたことがなかった。