「あのさ」
「ん?何?慶太くん」
いつもと同じ、眼鏡の奥の涼しげで仔猫みたいな魅力的な目が、俺の顔を見上げている。
俺が似合うと言ってから、コンタクトをやめて眼鏡だけにした菜々子。裸眼でもそこそこの視力があるから普段はかけなくても生活できるらしいのに、あえて眼鏡のままでいたりする彼女。
そんなところが俺は、すごく愛おしい。
「なんか、俺に隠してること、ない?」
聞くのは怖くてたまらなかったけど、もう聞かずにはいられなかった。
俺は菜々子を失うなんてもう考えられなくて、別れるなんて絶対に絶対に嫌だった。
こんなにも、面白くて真面目でお茶目で恥ずかしがりやでそのくせ賢くて勘が鋭くて、だけど肝心なところで鈍くさかったり天然気味だったりする百面相な女の子、菜々子のかわりになる女の子なんて、どこにもいないと知っているから。
ちょっと俯いて、何秒か黙ったまま歩いたあと、菜々子は何かを決意したように顔を上げた。
「敵わないな、慶太くんには」
「は……?何が」
「明日、会って欲しい人がいるの。そのときに、全部話す」
「会って欲しい人……?」
「うん。会ってくれたら、わたしが隠してること、話すから」
それって誰?隠してることって、何?別れたいって、思ってるのはやっぱり本当だったのか?
聞きたいことはやっぱり山ほどあったけど、彼女はもうそれ以上、俺になにも質問させない雰囲気を出していた。
駅で彼女を見送って、明日への不安を胸に抱きながらいつの間にか家に辿り着いていた。


