「……ごめん。いきなり前置きもなしに何言ってんだろうな、俺」

耳まで真っ赤にしてふるふると首を横にふる壷井さん。

「あの、でも、俺、本気だから」

薄い花弁みたいな唇を一文字に結んで、可哀想になるくらい眉を八の字にして、もうほとんど茹で上がったような顔で、壷井さんは頷いた。

「頷いてくれたってことは、拒否じゃないって思っていいってこと……でいい?」

壷井さんはもう一度頷いた。
その顔が、本当に苦しそうに見えた。まるで、酸素不足でいまにも死にそうな魚みたいに。

「ちょっ、壷井さん、大丈夫…?」

俺が近寄ろうとすると「ひやっ!」と驚いて後退りする壷井さん。それに驚く俺。

「あ、の、ごめんなさい……。なんか、その、頭がついていかなくて……」

途切れ途切れに彼女が発した言葉。顔は漫画の効果音の『アワアワ』を地でいってるって感じだ。

「あの、えっと、水嶋くん……わたしのこと……好き、なの……?」

こんだけ言わせてまだ聞くか!もしかして、この子ガチの天然なんじゃないだろうか?とちょっと焦る俺。
告白って、こんな複雑な作業なのか。シンプルに『好きだ』『私も』か、『好きだ』『ごめんなさい』で終了ーって単純に思ってた俺がかなり浅はかなんだろうか。

「だから、好きだってさっき言ったじゃん」

「あ、ゴメンナサイ……!」

「え、ごめんなさい……?」

「あ、えと、ゴメンナサイってそういう意味じゃ……」

見るからにテンパりまくっている壷井さん。俺が怒ってるように見えたのか、なんなのかよくわからない。

「壷井さん、ちょっと、落ち着いて」

「あ……ゴメンナサイ……」

「ほらまた謝る。あやまんなくていいから」

「ごめんなさい……」

ああもうヤダわたし。と袖で口元を押さえて本気で恥ずかしそうにしている壷井さんの姿に、俺は我慢できずにぶっと噴き出してしまった。

「まあ、そういうとこも好きです」

完全に壷井さんのすべてがツボにはまってしまった俺は、もう降参って意味も込めてそう言った。告白って、こういうもんなのかは解らないけど、きっとこんなに誰かに想いを伝えたくなることってもう一生ないんだろうなと思った。