「お帰り、慶太」

「お疲れさまです」

亀田さんの「お帰り」にはなんとなく愛情みたいなものが感じられる。
お洒落をしているつもりなのか、今日はグレイのニット帽をちょこんと頭にかぶっている。

「産まれたよ」

亀田さんは言った。

「まじすか」

出産間近だったプラティを隔離してやっていた小型の水槽に目をやると、小さな稚魚がうじゃうじゃ泳いでいた。

「あ、本当だ」

店の入り口付近には、レイアウト用の流木や石がところ狭しと並べられ、奥へ進むにつれて砂利やソイル、水草や水槽、ポンプやヒーター類、チューブといった器具のコーナーがある。

店のさらに奥は、人一人がやっと出入り出来るくらいの通路、両脇にレッドチェリーシュリンプやグッピー、バルーンモーリーやベタなんかの水槽がずらりと並んでいる。
どれも水は透き通っていて、鮮やかな生き物たちは通り過ぎる客を優雅に眺めている。

一つ一つ、水槽の中はその魚に似合うレイアウトがされていて、それらを眺めるたびに、亀田さんは見た目に似合わずやっぱりアーティストなんだなと思う。

マニアの間では有名な賞をいくつも受賞しているらしい亀田さんは、ただの気のいいオッサンではないのだ。