「水嶋くん、働いてるの?ここで」

「うん、そう。いわゆるアクアリウムマニアってやつ。あ、でも俺の場合、働いてから好きになったパターン。ここでバイトするまで金魚すら飼ったことなかったから俺」

「……そうなんだ……。だから……」

「え、だから、何?」

「あ、ううん、なんでもないの。独り言」

マリンアクアリウムの青い光に照らされて、壷井さんの顔はエキゾチックに輝いている。
壷井さんには青が似合うんだと思った。

「あのさ、壷井さん」

水槽を見詰める壷井さんの横顔にむかって、俺は言った。

「俺、壷井さんのこと、もっと知りたい」

「え?」

俺を見て、目を見開く壷井さん。なんのことだかわからない、って顔をしてる。

「何でもいいから、壷井さんのこと、もっと教えて欲しい」

「……水嶋くん?」

「なんつーか、うまく言えないんだけど……、俺が知りたいと思う人は、壷井さんだけだから」

青い光に照らされていても、壷井さんの顔が、たぶん真っ赤に染まってるんだろうとわかった。
壷井さんはしばらく固まって動かなくて、そして耐えきれなくなったように俺から目をそらす。

「ごめん、いきなり変なこと言って。あと、無理矢理連れてきてごめん。駅まで送ってくよ」

壷井さんが、はっとしたように顔を上げる。

「来てくれて、ありがとう」

壷井さんの眼球が濡れているように見える。
水の妖精は、困らせたり傷付けたりするとどこかへ行ってしまうんじゃないかと思った。
俺が伝えたかったことは、どこまで壷井さんに伝わったんだろう。