海水魚の水槽に、へばりつくようにして黄色い声をあげる壷井さん。
「わぁ、ナンヨウハギ!ツノダシ!うわあ、タツノオトシゴまで!ああ、これはなんだっけ……このすごい色のグラデーション……!」
「ああ、ロイヤルグラマね。ってか、壷井さんめっちゃ詳しくね?普通になんでそんな名前知ってんの?」
次々に魚の名前を言い当てる壷井さんにかなり驚く俺。確かにその映画に登場した魚ばかりだけど、キャラの名前じゃなく魚の種類言えるってすごくね?
「あ……えっと……」
我にかえったみたいに少し恥ずかしそうにする壷井さん。確かにさっきの壷井さんはもはやキャラ崩壊って感じだったから、恥ずかしいのも無理はないけど。
「調べたの。あの映画好き過ぎて。わたし、そういうの調べずにいられなくて」
なんか嬉しくなってしまう俺。
「わかる。俺もそうだし」
壷井さんがまた、恥ずかしそうに笑った。
「でも本物を見たのは初めて。だからすっごく嬉しい」
壷井さんが嬉しいと、俺も嬉しい。
「良かった。喜んでくれて」
「ありがとう。ずっと観ていても飽きないね」
「そう言ってもらえると、手入れのし甲斐があるよ。あ、言ってなかったけど、ここ、俺のバイト先ね。そこにいるのは店長の亀田さん」
壷井さんがまた目を見開いた。


