やっぱり俺は、余計なことばっかり言ってしまう。
とくに、壷井さんに対しては。
壷井さんは何も答えない。そりゃあそうだよな、俺なんかに自信持てとか言われても困るよな。

「ごめん。なんか変なこと言ってんな、俺」

壷井さんが首を横にふる。まるで定規で切り揃えたみたいなまっすぐな髪がまた揺れる。

「ううん、違うの。嫌だったとかじゃなくて……」

「大丈夫、無理しないでいいから。悪いのは俺だから」

壷井さんがまたなにか言おうとしたのを遮るように、「ほら」と俺は言った。

「あそこが、俺が壷井さんを連れて行きたかった場所」

壷井さんが俺の指差すほうを見る。目立たない、タートルの看板と、表で木箱に無造作に入れてバラバラに売られている、水槽のレイアウト用の流木や様々な種類の石。

不思議そうな顔で俺を見上げる壷井さん。

「ようこそ、君の好きな映画の世界へ」

大袈裟に、両手を広げて笑って見せる俺。ちょっと調子に乗りすぎか。
だけど不思議なことに、壷井さんがここへ来てくれたことが俺は嬉しくて仕方ない。七瀬さんのときはあんなにも不機嫌になってしまった自分が嘘みたいだ。

「どうぞ、こちらへ」

手を差し伸べて、店の中へ促した。壷井さんは不思議そうに店に足を踏み入れる。カウンターには亀田さん。にこにこ笑顔で「いらっしゃい。お待ちしておりました」と俺の雰囲気に合わせておどけて見せる。

店に入るとそこは外の景色とはまるで別世界だ。壁一面に広がる、水の中の世界。水中の楽園。

色鮮やかなグッピーの大群に、ネオンテトラ、バルーンモーリー、ミッキーマウスプラティ、レッドチェリーシュリンプ。アカヒレにメダカ、水槽の中で揺らめく水草たち。
壷井さんの眼鏡に鮮やかな緑が映っている。