こういうの、こういうのクラスのみんなの目の前で言われたりするの、壷井さんは苦手なんだろうなと思った。
だけど、この前みたいにサッと逃げられちゃったらどうしようもないから、すぐ捕まえちゃわなきゃいけなかった。
「ごめんな。なんか無理矢理みたいになって」
みんなの視線を避けるように早足で教室を出て、渡り廊下からグラウンドへ。
隣に並んでくれない壷井さんがちゃんと付いてきてくれているか時折振り返って確認しつつ、裏門から出て、俺のバイト先、タートルに向かう道を歩いている。
学校を出るまで壷井さんの顔はずっとカチコチにこわばっていて、話し掛けてもまともに返事がかえって来なかった。だけどようやく、壷井さんの声が聞けた。
「え、と……無理矢理なんかじゃないから大丈夫」
「そっか、なら良かった」
とりあえずほっとひと安心。壷井さんの声が聞けるまで、まるで誘拐犯にでもなったような気持ちだった。
「水嶋くん」
「うん?」
やっと隣に並んでくれた壷井さん。だけど、俺よりほんの少しだけ、半歩ほど後ろを歩いているからやっぱりちょっと首が痛い。
「あの、見せたいものって、何なのかなって……」
「それは、着いてからのお楽しみ。帰りはちゃんとまた、駅まで送るから心配しないで」
壷井さんが相手だと、俺は硝子細工に触るみたいに丁寧な話し方になるような気がする。
ちょっと緊張するし、大切にしないとすぐ壊れちゃいそうな感じがする。


