『いいぞ、もちろん。彼女か?』

電話の向こうの声が弾んでいる。亀田さんは俺にとって父親みたいなもんで、母親しかいない俺にとっては好きな子を会わせたいと思える唯一の人物でもある。

「女の子ですけど、彼女じゃないっす、まだ、一応」

『まだ、か。なるほどね』

「あ、こないだ来た子じゃないっすよ。あの子は勝手についてきただけですから」

これは先にいっておかないとちょっとまずい。七瀬さんが来ると思われていて、亀田さんに変なリアクションをされてしまったらやっかいなことになるからだ。

『ほー、てことは、あれか。今日来る子が本命ってことだな』

「ていうかだからこないだのは本当に勝手に……」

『ハイハイわかったわかった!楽しみにしてるぞ、慶太の本命』

「ちょ、あの、本命とか、余計な事言わないでくださいよお願いですから」

『わかってるって』

亀田さんの声が笑っている。本当にわかってんのかなこの人、と若干不安に思いながらも「じゃあ、お願いします」と言って電話を切った。

その日の放課後、壷井さんに逃げられないように、俺は終礼後すぐ斜め後ろの壷井さんに声を掛けた。

「行こ、壷井さん」

まだ教室にはみんないて、中岡はニヤニヤ笑っているし、七瀬さんはちょっと拗ねたような顔をしてる。壷井さん本人はガチガチの無表情で「……うん」と自信なさげに頷いた。