高校一年の春、バイト先を探していた俺が偶然見つけた求人広告、『アクアリウムショップタートル』。タートルは亀。店長の名前が亀田さんだからだ。
第一印象は『暇そうだし、ラクそう』。
アクアリウム専門店なんて、いかにもマニアックだし客も少ないだろうという俺の予想通り、店が客でごった返して忙しくなるなんてことはないし、希望した通りに休みがもらえるし。
おまけに店長の亀田さんはかなり気のいいオジサンで、嫌なところの全くない珍しい人だった。
亀田さんは金魚すら飼ったことのない俺に、水槽のことを一から十まで教えてくれた。
それまでアクアリウムなんてまったく興味がなかった俺も、バイトを始めて一年たった今ではすっかり水の中の世界の虜になってしまった。
バイトで稼いだ金の半分近くは自宅のアクアリウムに費やしているから、結局はなんのために始めたバイトなのかわからなくなってしまっているのが正直なところ。
見た目も中身もいわゆる『チャラい』部類にいる俺が、このいかにもオタクっぽい趣味にどっぷりはまってしまってることを知っているのは、せいぜい姉の美貴と親くらいだろう。