――キーン、コーン、カーン、コーン……。
終業のチャイムが鳴り終わらないうちに私は教室を飛び出し、のんびりとホームヘ入ってきた電車に駆け込んだ。
『藤沢ー。藤沢ー』
駅舎を出てからは、先生が書いてくれた地図とスマホの時計を睨みながら、一心不乱に目的地を目指す。
国道から一つ逸れ、なだらかな坂道を息をきらしながら登りきった所に、豊かな緑に囲まれた立派な病院が見えてきた。
急いでポケットからスマホを出して時間を確認する。
「五時三十分……。よし!」
今の時間、二宮陽輝はまだ談話室にいるはずだ。
ホッとしながら、大きな玄関から建物に入り、エレベーターで三階まで上がった。
「三〇五号室……三〇五……三〇五……」
メモに書かれた病室を探して廊下を歩いた。
等間隔に並んでいる扉の横に、病室の番号と、入院患者の名前を記載した正方形の表示板がある。
「あった……!」
おそるおそるスライディングドアを引き、そっと中をのぞきこんでみると、ベッドが四つ。それぞれを区切って覆うカーテンが天井から吊るされているが、すべて開かれていて、四床とも空っぽだ。案の定、誰もいない。
「よかった……」
ホッと小さく息をつき、消毒の匂いと生活臭の入り混じる病室へ足を踏み入れた。
四人部屋の一番奥の窓際のベッド。白いフレームに名札がはってある。
【二宮陽輝】【肝・膵臓内科 担当/山本】
患者と主治医らしき名前が上下に並ぶ。
「膵炎だっけ……」
間違いない。このベッドだ。