「え?」
すっかり先生と親友にでもなったような気分になっていた私は、かつて自分の中にくすぶっていた彼女の息子への黒い興味を思い出し、なんだか申し訳ないような気持ちになる。
「あ、はい……。でも……」
「ごめんなさいね。無理すれば行けないこともないんだけど、どうしても今日中に片づけたい仕事があって」
見ればデスクの上には書類が山積みになっている。
「そう……なんですか……えっと……」
うにゃうにゃ言っているうちに、先生の両手が私の右手を包んだ。
「ありがとう! ごめんね! 恩に着るわね!」
断る理由を見つけることもできず、私は複雑な気持ちで配達を引き受けた。
「五時からが病院の夕食の時間で、その後、六時まではお友達と談話室にいると思うの。それ以降なら病室にいるから、届けてやって」
先生が白い歯を見せてにっこりと笑う。