こうして、二宮先生と保健室で過ごす昼休みが、学校で唯一楽しい時間になっていった。友だちと距離を置いている私が心から笑える場所は、他になかったから。
そして、たとえわずかな時間でも自然体で過ごせるようになった私の中で、二宮陽輝への黒い興味は徐々に薄れ始めた。
先生が『ハル』と呼ぶ息子さんの存在は、“私よりかわいそうな男子”から“大好きな校医の息子さん”へと進化したのだった。
ところが、二宮先生との交流が始まって三週間が経った、ある昼休み。
いつものように保健室をのぞくと……。
「あ! 藍沢さん! 待ってたわ!」
先生の顔に、いつにも増して歓迎ムードが漂っている。
「ど、どうかしました?」
私が手渡した診断書入りの封筒は目もくれられず、そのままデスクの隅に置かれた。
「今日、どうしても病院へ行けないの。もし迷惑じゃなかったら、藍沢さん、図書室の本、届けてくれないかな?」
二宮先生が私を拝むように手を合わせる。