「え? でも……」
一年生の時から在校しているクラスメイトが彼の存在を知らないのが不思議だ。それに私が借りた本の図書カードには、つい最近、彼が借りた痕跡がある。
「でも、学校に本だけ借りに来てるなんて……ないよね……」
この難解なミステリーに首をひねっていると、担任はニッコリ笑って、
「ああ。図書室の本のことね? 藍沢さん、校医の二宮先生を知ってる?」
と、逆に尋ねてきた。
「あ、はい……。転入の時、保健室で問診を受けました」
白衣が良く似合うショートカットの女医さんだった。が、その時以来、会っていない。
「先生の息子さんなのよ」
「え? そうなんですか?」
私と同じ年の子供がいるとは思えない、若々しい美人だったような気がする。
「二宮君、本当はこの四月で三年生に上がるはずだったんだけど、出席日数が足りなくて、留年したのよ」
なるほど。どうりで同級生が彼のことを知らないはずだ。
もしかして、前の席の女の子が言っていた『有名な三年生』って、彼のことなのだろうか。
でも、学校を休みがちなのに有名?
休学してることで有名?
いや、やっぱり、あれは別の三年生のことなのかな。