「シヅキ」 「なあに?」 鼻歌をやめて呑気な声でシヅキが答える。 「自転車降りてくれ」 「はあい」 声とともに少しだけペダルが軽くなる。 「ちょっと!」 「なんだ?」 「置いていくの?」 「ここを登れば丘に着く。そこで待ってるよ」 シヅキが走りながら追いかけてくる。 「春人も歩こうよ」 「俺は歩かない」 自転車が急に重くなりバランスを崩す。