俺も驚いた。

凪が俺のことをそういう対象に見ていないのと同じように、俺も凪のことはそういった対象として見たことはない。

だけど、だから、凪が誰かと付き合うと聞いて驚いた。

小さい頃から何一つ変わらない凪が付き合うとか、ましてや人を好きになるとか、誰かにそういった対象として見られていたとか、そのことに驚いた。

「春は好きな人いないの?」

「いないな」

「勿体無いなー。春は意外と人気あるんだよ?それを有効活用しようよ」

「なんだよそれ」

分からない。

凪には分かるのに、俺には人を好きになるとか、誰かを愛しいと思うとか、そういったものが全然分からない。

「春!見て!」

凪の指を追ってその先を見るとそこには散り遅れた桜が一つだけ残っていた。

「可愛いね。まだ咲いてる花があるんだねー」

凪は嬉しそうにそう言ったけど、俺にはその気持ちは分からなかった。

生い茂る緑の中、一つだけ取り残されたそれはひどく窮屈そうで、凪みたいには見れなかった。