怖いよ、だれか助けて―――。


わたしはぎゅっと目を瞑り、両手で顔を覆った。

尾びれをなるべく小さくして、身体を丸める。


あぁ、奇跡が起こって、この網が消えてしまえばいいのに………。


そんな願いをお月様が叶えてくれるはずもなく、とうとう海面が見えてきた。


網がぐぐっと勢いよく引き揚げられる。

わたしはがんじがらめになったまま、ざばりと水面から顔を出した。


はるか遠くまで広がる真っ黒な海に、黄色がかった月の光が一筋の模様を作っている。


そして、わたしの目の前には、釣り舟がぷかぷか浮いていた。

その上には、大きな満月を背にした、黒い人影―――。


「…………おっ? なんだ、お前?」


舟の上の人影が、意表を突かれたような声を上げた。

若い男性の声。


わたしも唖然として言葉を出せずにいると、彼はすっとこちらに手を伸ばしながら、


「なんだ、泳いでいたのか? それとも溺れていたのか? とりあえず上がれ………」


と言って、わたしの腕をぐっと掴んだ。


力強い腕がわたしを舟の上へ、一気にお腹のあたりまで引き揚げる。

そのとき彼が、「うぉっ!?」と目を丸くした。


「…………なっ、お前、な、なんで裸なんだ……? お、驚いた………」


彼は気まずそうに目を背ける。

月明かりに照らされているその頬は、ほんのりと赤らんでいるように見えた。


「………いつも、こうなの」


小さく答えると、彼は、


「か、変わってるな……」


と呟きながら、さらにわたしを引き揚げた。