そのとき、ふいに、あたりが暗くなった。


不思議に思って海面を仰いでみると。


「―――きゃあぁっ!?」


わたしの悲鳴が無数の泡となってこぽこぽと海面へ立ち昇っていく。


その泡ごと包み込むように、わたしに向かって落ちてくる―――網。


月光の網じゃなくて、ほんものの網。

地曳き網、というやつだ。


わたしの周りで楽しげに踊っていた小魚たちは、慌てた様子で身をよじらせ、細かい網の目の隙間から通り抜けていく。

少し大きな魚は網目をすり抜けられず、為す術もなく網に囚われた。


それは、わたしも同じ。

魚たちよりもずっと身体の大きいわたしは、どうあがいても網から逃れることができなかった。

それどころか、もがけばもがくほどに網が腕や髪にきつく絡まり、身動きさえとれなくなってしまった。


海の底から海面へ、するすると引き揚げられていく。


あぁ、もうだめだ………。

わたし、つかまってしまうんだわ………。

恐ろしい恐ろしい人間に―――。


むかーしむかし、おかあさんから何度も聞かされた話。


『―――人間って、ねぇ。とっても怖い生き物なのよ。私たちの海に網を落として、海の生き物たちを根こそぎ連れ去ってしまうの』

『ええ……っ?』

『そしてね、人間につかまった生き物は、殺されて、食べられてしまうのよ』

『じゃあ、わたしやおかあさんも、人間につかまったら殺されてしまうの?』

『いいえ、私たち人魚はとても珍しいからね……。見世物小屋に売られて、狭くて汚くて息苦しい、水もないところに閉じこめられたまま、死ぬまで好奇の目で見られつづけるのよ………』

『死ぬまで……』


想像しただけで鳥肌がたつほど怖ろしいことだった。

でも、話はそれで終わりじゃなかった。