「わざと、捕まったのよ!」


にっこりと笑って言い返すと、彼はまたきょとんとした顔になった。


「わざと? なんで?」

「あなたに会いたかったから!」


わたしはそう言うと同時に思いっきり跳ねて、彼のいる舟の上に飛びうつった。


「わっ! な、なんだ!?」


驚いて戸惑っている彼に、ぎゅうっと抱きつく。


「な、ななな………」

「あなたに一目惚れしちゃったの! わたしを陸に連れてって!」

「はあーっ!?」


彼はわたしの両肩を掴んで引き剥がし、わたしの顔を覗き込んできた。


「正気か、お前!」

「もちろんよ」


彼はなんだかひどく驚いている。


「………だめ?」


首を傾げて訊ねると、彼は少し困ったように、「だめっていうか……」と頭を掻いた。


「………お前、人魚だろ?」

「ええ、そうよ」

「じゃあ、陸に行ったら死んでしまうんじゃないか?」


どうやら彼は、わたしのことを心配してくれているらしい。

あぁ、やっぱり、なんて優しい素敵な人なの!


「心配しなくても平気よ! あのね………」


わたしは両手で彼の頬をつかみ、ぶちゅっと口づけた。


「わぁーっ!?」


彼は驚いたように仰け反り、そのまま海の中に落ちてしまった。

わたしは彼に続いて海に飛び込み、彼の身体をつかまえる。