*
「サトシー、帰ろ~」
帰りのチャイムが鳴ると同時に、後ろで夏木さんが声を上げた。
俺はぱっと目を上げて振り返り、夏木さんの顔色を窺う。
夏木さんはどこか落ち着かなさげな表情で、向こうのサトシに手を振っていた。
サトシは夏木さんの幼馴染みらしい。
普段はあんまり喋っているところを見ないけど………。
その二人が、なんで今日に限って一緒に帰るんだ?
え………まさか、まさか!?
夏木さん、サトシと付き合ってるとか!?
うそ、まさか、そんなはず………!!
いや、でも…………。
心臓をわしづかみにされたようにどきりとしたものの、次の瞬間、それはないなと確信した。
なぜなら、
サトシはものすごく面倒そうな顔をしていて(彼女と一緒に帰るというのに、あんな不機嫌面をするはずがない)、
夏木さんのほうも、俺に向けるときのような恥じらいなんて欠片もない表情を浮かべていたから。
「クレープとか食べて帰りたいな~♡」
サトシの腕をがっしりと掴んだ夏木さんが、いつになく高めの声でそんなことを言っている。
サトシが「はあ?」と眉をひそめ、顔をしかめた。
やっぱり、大事な彼女にあんな反応をするはずがない。
俺は少しほっとする。
きっと、なにかの罰ゲームとかで、サトシが夏木さんにおごるというような展開になっただけだ。