「あれ〜? 消しゴム忘れちゃった〜」


俺が勇気をふりしぼって夏木さんに告白してから一日。


夏木さんは恥ずかしさからか、何も言わずに俺の後ろの席に座った。

そして、こんなことを言ったのである。


たいへんだ、消しゴムがないと夏木さんは困るだろう。

俺の筆箱には、たまたま二つの消しゴムが入っていた。


神様、ありがとう………!


俺はきれいなほうの消しゴムをつかみ、夏木さんを振り返ろうとした。

んだけど。


「消しゴム貸して!」


夏木さんがそう言って手を差し出した先は、俺ではなく原田の席だった。


くふふ、夏木さんったら。

ほんとに照れ屋さんだなぁ。

俺に直接「貸して」と言うのが恥ずかしくて、わざと隣の原田に頼んだのだろう。


でも、そこは俺が察して、気をきかせてあげなくちゃ!


「夏木さん、俺の消しゴム使っていいよ」


俺はドキドキしながらもできるだけにっこりと笑って、夏木さんに消しゴムを差し出した。


「俺ふたつ持ってるから、今日一日貸してあげるよ」


気をつかわせないように、フォローも入れつつ、ね。


「ありがと! 犬飼くん」


夏木さんがなぜか少し困ったような笑顔を浮かべて、俺の消しゴムを受け取った。