先生が微笑みながら言うと、男子たちが騒ぎ出した。


「高橋、そんなに林のこと好きなのかよ!!」

「夢の中まで追いかけてくとか、ストーカーじゃん!」

「だからっ、ちげーって!」


高橋くんが顔を真っ赤にして怒鳴った。


先生はうふふと笑って、


「こらこら、今のは例え話だからね? 林さん、高橋くん、勝手に名前つかっちゃってごめんね」


とみんなを静めた。



「というわけで、この歌の意味は、自分の夢に好きな人が出てきたから、その人も自分のことを想ってくれていて、それで夢の中まで会いに来てくれたんだって喜んでいるんですね。

それまでは、夢なんてそんなに信じていなかったけど、その人が夢に出てきてくれてからは、夢のことを信じて頼りにするようになった。
好きな人に夢で会えることを楽しみに待つようになった。
想い人に会うために夢の通い路を通ってくるのだという迷信を信じるようになった。

……そういう可愛らしい恋の歌なんですね」



みんながへえぇ、と息を洩らした。


あたしはノートに、『夢の通い路』と書きつけ、その下に『愛しい人の夢の中へ会いに行く』と小さく足した。


………おもしろいなぁ。

夢に対する考え方が、平安時代と現代では180度違うんだ。


夢に見た自分が相手のことを好きなんだと思わずに、相手が自分のことを好きで会いに来たと考えていたなんて。

夢なんて、あくまでも自分の脳が見せるものなのに。

でも、昔の人はそんな科学的な知識なんてなかったわけだから、しかたないか。


そんなことを考えているうちに、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。