あたしは無表情を装って、玉子焼きを口に放り込む。

あたしがこれ以上その話に乗る気がないのが分かったらしく、二人もお弁当を食べ始めた。


…………もう、ほんと、困る。

あたしと今井くんは、まだそんなんじゃないのに。


………いや、『まだ』っていうのは訂正。

聞かなかったことにして?


とにかく、あたしと今井くんは、そんなんじゃないのだ。


ただ、同じドラマを見ていて。

ある回をあたしが録画しそびれてしまったと嘆いていたら、今井くんがDVDを貸してくれて。

それから、たまにそのドラマの感想を話し合うようになったりして。

それまではあんまり話したこともなかったけど、それ以来、ちょっと仲良くなって。

たまたま帰りが一緒になったりすると、肩を並べて自転車を走らせながら、ちょっとした話をしたりして。


それだけの関係。

ただのクラスメイトと変わらない。


そりゃ、今井くんは、ほかの男子と違って大人っぽい感じがして、いいなって思ったことくらいはあるけど。

話も合うし。

喋ってて楽しいし。

優しいし。

好きな映画とか、読んだことのある本とかもかぶってて、趣味が合うなって思うし。


………でも、今井くんがあたしのことを好きだなんて、ありえない。

今井くんは社交的で、誰とでも仲良く話せるタイプだもん。

ほかの女子とも、けっこうよく喋ってる。

だから………あたしが特別に仲がいいなんてこと、ない。

ないない、絶対ない。


そんなことをぐるぐる考えながら食べていたからか、お弁当の味はまったく分からないくらいだった。