「今井ってさぁ、神山のこと好きなんだろ!」


教室のうしろのほうで、わあっと歓声が上がった。

男子たちが今井くんをからかうように、ぎゃあぎゃあ騒いでいる。


――――高校一年の男子なんて、ただのガキだ。


誰かが誰かを好きだとか、
誰と誰が付き合いだしたとか、

そういう話題にデリカシーなく飛びついて、渦中の人物をからかうことが楽しくて仕方ないのだ。


あたしは、後方の騒ぎなど聞こえていません、興味もありません、という平然とした顔で、机の上に英語の単語帳を開き、下を向いていた。


でも、どうしたって、興奮した声で交わされる会話の内容は、あたしの耳に飛び込んでくる。


「今井、マジ!? そうなん?」

「…………や、」

「マジだよ、だってこいつ、いっつも神山さんのほう見てるし!」

「…………別に、そんなことねぇって」

「そーいや俺見たぞ、昨日二人で一緒に帰ってた!」

「あれは別に、たまたま………」

「うおー、照れてる!」

「うっせえな!」

「ムキになるとこが怪しくねえ!?」

「だから別にムキになんかっ」


いたたまれない気持ちになって、あたしは席を立ちたくなったけど。

このタイミングで立ち上がって教室を出たりしたら、あたしまでからかわれるに違いない。


だからあたしは、背中にちくちくと刺さる視線を感じながらも、貝殻のようにだんまりを決め込んでいた。