笑いをこらえつつ、左手の掌を差し出すと、するりと裏返された。


え、と目を丸くしているうちに、薬指にそっと指輪がはめられる。


「……なに、これ」

「見れば分かるだろ」

「え、え? まさか……」


状況が飲み込めてきて、一気に頭に血が昇った。

ばくばくばくとうるさいくらい心臓が暴れている。


「結婚とか、興味ありませんか?」


ケイが悪戯っぽく笑う。

驚きすぎて何も言えなくて、口をぱくぱくさせていると、「ひよこみたい」とケイが噴き出した。


風が吹いて、ケイの髪がさらさらと揺れる。

前髪の隙間からのぞく目が優しくて、なぜか涙腺が緩んだ。


「―――興味、あります」


なんだこの受け答え、と心の中ではおかしく思っていたけれど、涙が溢れて泣き顔になってしまった。


「そうですか。趣味が合いますね。では、一緒に結婚しましょうか」


ケイが私の左手をとり、手の甲にそっと口づけた。

その瞬間、私はジャンプしてケイに抱きつく。


「わっ」


バランスを崩したケイが、私を抱き締めたまま地面に転がった。


ケイに馬乗りになって、その顔を見下ろす。


金色のじゅうたんのような銀杏の落ち葉に包まれて、ケイはふわりと笑っていた。


ああ、大好きだ。

ケイのことが大好き。


もう、他の人なんて見えない。

考えられない。



どうしてだろう。

前は、君じゃだめだと、君だけは愛せない、と思っていたのに。

今は、君じゃなきゃだめだ、君だけを愛してる、と思う自分がいる。


私はケイの頬を両手ではさんで、思いっきりキスをした。


ケイが私の背中に腕を回し、そのままくるりと転がされた。

身体が入れ替わる。


今度はケイが、私にキスをくれた。

降り注ぐ霧雨のように優しいキス。



ありがとう、と私はキスの合間に囁いた。


私を好きになってくれて、私を待っていてくれて、私を愛してくれて、ありがとう。


伝えたいことはたくさんたくさんあるのに、涙がこみあげてきて言葉が出なくて、その先はうまく言えなかった。


ま、いっか、と思う。

今は諦めよう。

しかたがないから、続きは今度にしよう。


だって、時間はたっぷりあるんだから。






* 完 *


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!