【October, 2016】
*
銀杏並木の道を、私たちは二人で並んで歩いていた。
「せっかくの休日だし、たまには散歩でもする?」とケイが言い出したからだ。
付き合い始めて八ヶ月、同棲を始めてから四ヶ月。
私たちは順調に関係を築いていた。
もちろん、たまにはケンカもするけれど。
原因は主に私だ。
私が前から飼っている犬のニケ(メス三歳)があまりにもケイになつきすぎて、ケイもニケのことを溺愛していて、二人があまりにもラブラブなので、私が嫉妬してしまったこととか。
ケイがテレビを凝視していて、何をそんなに必死に見ているのかと思ったらどうやら超美人で可愛い女優さんに釘付けだったようで、私が怒ってしまったこととか。
(ケイは『ただ疲れてぼうっとしてただけで女優を見ていたわけじゃない』って言ってたけど、むかつくものはむかつくのだ。)
そんな紆余曲折がありつつも、私たちは上手くいっていた。
「この道、すごいね。こんなに銀杏がたくさん並んでるの初めて」
隣をゆったりとした速度で歩くケイを見上げて言うと、なぜか彼は自慢げに「だろ?」と笑った。
「こないだ営業の帰りにたまたま通ってさ。綺麗だなと思って、ミキに見せたくなって」
綺麗なものを発見して、私に見せようと思ってくれた。そんな些細なことが、とてつもなく嬉しい。
にやついてしまいそうな頬を押さえながら、『じゃあ私は、この前見つけたコーヒーが美味しい喫茶店にケイを連れていこう』とこっそり決心した。
ケイはコーヒーが大好きなのだ。
「今がいちばん綺麗だね、きっと。全部の葉っぱが真っ黄色になってる」
「葉の数も多いしな。なんかすげえ! って感じだよな」
「ほんと」
一点の染みも色褪せもない、まっさらな黄色の銀杏の葉は、秋の真昼の透き通った日差しを受けると、きらきらと輝いて、黄金色に見えた。
「ねえ、銀杏ってさ、金色なのに、なんで銀って書くのかな」
「そうだなあ、不思議だな。あ、もしかして、銀なんの実のほう言ってるんじゃないか」
「ああ、確かに。銀なんって殻が白いから銀色にも見えるかも」
そんなとりとめのない話をしながら、私たちは黄金色に染まる木々に囲まれた道を行く。
ふいに風が吹いて、梢がさらさらと音を立てたとき、私たちはどちらからともなく足を止め、金色の光を放ちながら揺れる銀杏を見上げた。
その瞬間だった。
『ああ、きっと十年経っても二十年経っても、よぼよぼのおじいちゃんおばあちゃんになっても、私たちはこうやって並んで歩いているんだろうな』
そんな思いが胸に湧き上げてきた。
恥ずかしい思いつきに頬がほてったけれど、ケイは気づいていないから良かった。
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銀杏並木の道を、私たちは二人で並んで歩いていた。
「せっかくの休日だし、たまには散歩でもする?」とケイが言い出したからだ。
付き合い始めて八ヶ月、同棲を始めてから四ヶ月。
私たちは順調に関係を築いていた。
もちろん、たまにはケンカもするけれど。
原因は主に私だ。
私が前から飼っている犬のニケ(メス三歳)があまりにもケイになつきすぎて、ケイもニケのことを溺愛していて、二人があまりにもラブラブなので、私が嫉妬してしまったこととか。
ケイがテレビを凝視していて、何をそんなに必死に見ているのかと思ったらどうやら超美人で可愛い女優さんに釘付けだったようで、私が怒ってしまったこととか。
(ケイは『ただ疲れてぼうっとしてただけで女優を見ていたわけじゃない』って言ってたけど、むかつくものはむかつくのだ。)
そんな紆余曲折がありつつも、私たちは上手くいっていた。
「この道、すごいね。こんなに銀杏がたくさん並んでるの初めて」
隣をゆったりとした速度で歩くケイを見上げて言うと、なぜか彼は自慢げに「だろ?」と笑った。
「こないだ営業の帰りにたまたま通ってさ。綺麗だなと思って、ミキに見せたくなって」
綺麗なものを発見して、私に見せようと思ってくれた。そんな些細なことが、とてつもなく嬉しい。
にやついてしまいそうな頬を押さえながら、『じゃあ私は、この前見つけたコーヒーが美味しい喫茶店にケイを連れていこう』とこっそり決心した。
ケイはコーヒーが大好きなのだ。
「今がいちばん綺麗だね、きっと。全部の葉っぱが真っ黄色になってる」
「葉の数も多いしな。なんかすげえ! って感じだよな」
「ほんと」
一点の染みも色褪せもない、まっさらな黄色の銀杏の葉は、秋の真昼の透き通った日差しを受けると、きらきらと輝いて、黄金色に見えた。
「ねえ、銀杏ってさ、金色なのに、なんで銀って書くのかな」
「そうだなあ、不思議だな。あ、もしかして、銀なんの実のほう言ってるんじゃないか」
「ああ、確かに。銀なんって殻が白いから銀色にも見えるかも」
そんなとりとめのない話をしながら、私たちは黄金色に染まる木々に囲まれた道を行く。
ふいに風が吹いて、梢がさらさらと音を立てたとき、私たちはどちらからともなく足を止め、金色の光を放ちながら揺れる銀杏を見上げた。
その瞬間だった。
『ああ、きっと十年経っても二十年経っても、よぼよぼのおじいちゃんおばあちゃんになっても、私たちはこうやって並んで歩いているんだろうな』
そんな思いが胸に湧き上げてきた。
恥ずかしい思いつきに頬がほてったけれど、ケイは気づいていないから良かった。