あまりにもいつもとちがうケイに驚きを隠せず、呆然と見上げていると、彼は恥ずかしそうに片手で顔を覆った。


「やべえ。これ、自分で言っててめっちゃ照れるんだけど」

「……だろうね。聞いてる私でさえめちゃくちゃ恥ずかしいから」


そのまま二人とも無言になってしまい、沈黙が流れる。

でも、気まずくはない。恥ずかしいけど。

ケイといるときの沈黙は、いつでも心地いいのだ。


火照る頬に、冬の夜風が気持ちいい。


「照れくさいついでに、もう一言、恥ずかしいこと言っていいか」


しばらくしてからケイが言った。

これ以上恥ずかしいことって、なんだ。こわいような、でも気になるような。


「色々考えたんだけど、俺はさ、ミキしかだめなんだよな」


へっ、と変な声が出てしまった。

ケイがくすりと笑う。


「お前はずっとカズ一筋って感じだったし、カズが結婚した後も他のやつと付き合ってたし、だから、もう諦めようって何回も思ったんだよ」


どきりとした。

ものすごく勝手なのは分かっているけれど、ケイが私のことを諦めようとしていたと知って、とてもショックだった。

本当に最悪だけど。


「でもさ、やっぱりだめで。俺は、ミキじゃなきゃだめなんだって自覚したんだ」


彼のまっすぐな言葉に胸がえぐられたような気持ちになる。

私じゃなきゃだめ?

どうして、そんなことを言ってくれるの?


「他の女と会っても、喋っても、つまらなくて。気つかうばっかりで、楽しくないんだ。俺が心から楽しいと思うのはミキといるときだけだし、本当に可愛くてたまらないって思うのはミキのことだけなんだよ」


こんなに甘い言葉をもらったのは生まれて初めてだった。


どうして、私じゃなきゃだめなんだろう。

私は普通の平凡な女だし、そんなふうに言ってもらう価値はないと思うんだけど。


でも、嬉しい。

私だけが特別だと言ってもらえるのは、くすぐったくて、ちょっと涙腺が緩んでしまいそうなほど幸せだった。


「……ありがと」


なんとかそれだけ伝えて、私は顔を伏せた。

恥ずかしくてまともに彼の目を見られなかった。


ケイがふっと笑ってから、さらに言葉を続ける。


「ミキが自分を飾らずに、自分に素直になれるのは、俺の前だけだろ? それってつまり、一生一緒にいられるってことだと思うんだよな」


ふわりとした笑顔が私を包んだ。


「だから、安心して俺のところにくればいいと思うんですが、いかがでしょう?」


泣きそうだった。

でも、なんとか笑顔を浮かべる。

泣き笑いの変な顔をしていると思うけど、ケイならそれを馬鹿にしたりしないと分かっていた。


「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」


ケイがふはっと吹き出した。



ああ、ケイのことが好きだな。

こみあげるように思った。


くしゃりと笑う優しい笑顔も、柔らかい声も、誰より穏やかで温かい心も、ずっとずっと前から、ぜんぶ大好きだった。

こんなに私を大切にして、愛してくれる人は、きっと他にはいない。


もっと、ずっと、君だけを愛したいな。