【December, 2015】







地下鉄を降りて地上に出ると、夜空に粉雪が舞っていた。


「あ、雪」

「本当だ。初雪だな」

「冬ですねえ」

「冬ですなあ」


寒いと、自然と人のいるほうへと寄っていってしまう。

肩がケイの腕にぶつかって、「あ、ごめん」と見上げたら、ケイがにっと笑った。


「役得だ」


どういう顔をすればいいか分からず、「ばか」と呟いて前を向いた。


鼓動が早いのを自覚する。

頬も赤くなってしまっているような気がしたけれど、雪が降るほどの寒さなら、少しくらい赤くても気候のせいだと思ってもらえるだろうか。


「映画、何時からだっけ」


空気を変えたくて、あまり気にしてもいなかったことを突発的に訊ねた。


「七時半」とケイが答える。


「そっか。いい時間だね」

「そうだな」


二人で映画を見るのは初めてだった。

この前会ったときに、最近公開されて話題になっている映画が気になっているのだと話したら、『じゃあ、一緒に行こうか』と言われた。


男女で映画なんて、いかにもデートという感じがして少し悩んだけれど、

彼氏とは別れたことだし問題ないか、と思って誘いにのった。


「ちょっと早く着いたな」

「あと三十分くらいかな」

「とりあえず何か食うかー」

「そうだね。あ、ビールも飲みたいな」

「お、いいな。金曜だしな」


私たちは売店の前の列に並び、メニューを見ながらあれこれ話し合う。


結局、ホットドッグとフライドポテトとポップコーン、そしてビールを買ってテーブルに腰かけた。


「うん、うまい」

「おいしいね。でも、ちょっと脂っこいかな……」

「あ、それ分かる。最近、揚げ物とかつらくなってきたんだよな」

「アラサーですからね、我々も」

「気分は大学生なんだけどなあ」

「気分だけはね」


そんな話をしているうちにいい時間になったので、私たちはシアターに入った。


ケイの隣の席に腰をおろした瞬間、思わぬ近さにどきりとする。

映画館の座席って、こんなに近かったっけ。


肘が当たりそうで、私は妙に背筋を伸ばして膝に手を置いて座った。


「ミキ、やけに姿勢がいいな」


隣から小さく笑う声がして、反射的に顔をむけると、すぐ近くにケイの瞳があった。


私たちは数えきれないほど何度も行動を共にしてきたけれど、いつも向かい合わせで座っていて、

そういえば、こういうふうにすぐ隣に並んで座るのは初めてだった。