「なんだか、私も見習わなきゃって思ったよ。日比野くん、ありがとう」


「いや、僕は監督の考えを伝えただけだから」
 
照れくさくなり、僕は首の後ろを掻きながら答えた。

すると彼女は小さくかぶりを振って、ゆっくりと口を開く。


「でもその監督の話を受け入れて、実践したのは日比野くんの意思でしょ。


だから、 実際にその効果を実感してる日比野くんの言葉には説得力があったよ。

それに、私が何気なく言った『お疲れ様』を受け流さないで、

きちんと答えてくれたのも日比野くんの意思でしょう?

なんだかそれが嬉しかったよ」

取って付けたような言葉じゃなく、彼女自身が本当に心から思っていることを言ってくれているんだと感じた。


彼女の目はまっすぐ僕に向いていて、思わず視線をそら してしまう。
 
……彼女は、嬉しいとか、好きだとか、そういうプラスの感情を言葉にしてスト レートに伝えてくる。

その言葉は、僕が知らなかった自分の価値を見出してくれるものだ。


そんなとき、僕の中で言いようもない嬉しさが込み上げてくる。
 


プラスの感情は、言葉にして口にしたほうがいいんだ。彼女にならって、僕も自分 の今の感情を言葉にする。



「ありがとう、そう言ってもらえると……僕も嬉しいよ」

 
まだ気恥ずかしさもあるが、安心感もあった。


彼女は僕が言ったことを必ず受け入れてくれるんだと思った。