「浮気されて二か月で別れましたよ。同時にバイトも辞めて代わりに塾通って、それからは受験に集中。そんで無事に四大に合格。ただし卒業するのに六年かかりましたけど」


「頭いいんだね。でも梨亜ちゃんぐらい可愛い彼女がいて浮気するなんて信じられないな」


「あたしだって信じられなかったですよ、合鍵で部屋に入ったらいきなり台所でビーフシチュー作ってる彼女とバッティング。つかみあいの喧嘩とか睨みあいになったら面白かったかもだけど、お互い困った顔で見つめあっちゃいました」


 あはは、と笑うと坊主寸前まで短くした後頭部が揺れる。手はちゃんと頭の前で組まれていて、あたしの太ももを触って来たりしない。


お触りNGのデリバリーエステできちんと決まりを守ってくれる良心的な客に当たったことを、今宵は神様に感謝したい。


 なんせ今は土用だ。どんな悪質な客とご対面しても不思議じゃない。


「でも俺も知らなかったよ。土用が年に四回あるなんて」


「あるらしいですよ。大人になってからもう一度ちゃんと調べたんだけど、ほんとに四回あるんです、季節の変わり目ごとに。その間は大きな工事、庭いじり土いじり、大事な契約ごともだめ」


 言いながら首の横を握りこぶしでぐりぐりと刺激する。リンパだか何だかわからないが、疲労物質に太らされた濁った細胞が悲鳴を上げる声が聴こえそうだった。


「え、ちょっと何それ。波が大きくなると何か関係があるの?」


「あります。波が大きくなるって、要は潮の満ち引きに関係していて、月の状態とリンクしてるから。人間の体も80パーだか90パーだか忘れたけど水でできているわけだし、その異常な状態と無関係ではいられないんですよ。

イライラしたりムカムカしたりメソメソしたり、性欲が高まったりする。だから大きな工事なんてしたら失敗される可能性があるし、騒音が耳についてノイローゼになりかねません」


 なるほどねー、と客は関心したように言う。首のマッサージから背中へと手を動かす。


これが終わればいよいよ回春。すなわち抜き。さぁ、四つん這いから上手く持ち込んで触られずにそのまま昇天させられるだろうか。