美術室の入り口のドアを開けると、まだ午前中の早い時間だというのに、窓から射し込む太陽の光でむっとするほど暑かった。

絵の具と粘土と埃の匂いが押し寄せてくる。


窓に直行してがらりと開くと、そよ風がそっと吹いてきた。

今日はまだ風があるからましだ。

無風の日は、座っているだけで汗が出てくるくらいに暑くなる。


私はしばらくの間、窓際に立って汗が乾くのを待ち、それからイーゼルを出してキャンバスを立てかけた。


溶き油で絵の具を薄め、平筆にとって、描きかけのキャンバスに色を重ねていく。


文化祭では、静物画と風景画を一枚ずつ展示しようと思っていた。

もし余裕がありそうなら、もう一枚出したい。

できれば人物画、それか動物画を考えている。


夏休みなのに毎日学校に行くなんて偉いね、と遥に言われたけれど、別に私は偉くもないし、頑張っているわけでもない。

描くのが好きなのはもちろんだけれど、絵を描いている間は、色々なことを考えなくてすむから、気が楽になるのだ。


進路のこととか、恋愛のこととか、私を悩ませたり落ち込ませたりすることを考えなくてすむ。

現実逃避、とまではいかないけれど、悩みや苦しみから絵に逃げているのかもしれない。