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「遠子、自販機いっしょに行こ」
教科書を鞄に入れて帰り支度をしていたら、遥が近づいてきた。
いつものメンバー、香奈と菜々美も後ろに立っている。
私は「うん」と頷いて席を立った。
放課後の喧騒の中を歩き、生徒玄関の階段を下りたところにある自動販売機に向かう。
階段の先にはグラウンドがあって、既に部活が始まっていた。
野球部、サッカー部、テニス部、そして陸上部。
それぞれの部員たちが練習の道具の準備や、ウォーミングアップをしている。
特に飲みたいものはなかったけれど、私だけ買わないわけにもいかないので、紙パックのフルーツ・オレを選んだ。
「あ。遠子、またフルーツ・オレ買ってる。好きだねえ、ほんと」
遥がにこにこしながら顔を寄せてきたので、私は「まあね」と笑った。
「それ、そんなに美味しいの?」
遥はいちごミルクのパックにストローを刺しながら首をかしげる。
その動きに合わせて、つやのある長い髪がさらりと揺れた。
色素が薄くて柔らかそうな、きれいな髪だ。
「うーん……普通、かな」
「ええ? 普通なの? じゃあなんでいつもそれ選ぶわけ?」
「なんとなく、気になるっていうか」
なにそれ、と香奈と菜々美がおかしそうに笑った。