夢中になって描いていて、気がつくと陽射しがオレンジ色を帯びる時間になっていた。


ゆっくりと視線を落とす。

スケッチブックの真っ白なページいっぱいに鉛筆で描かれた、軽やかに跳ぶ彼方くんの姿。


決して手の届かない人。

手を伸ばすことさえ許されない人。


近づくことすらできないから、私はこうやって、彼を描く。

描くことで満たされようとしている。


私が描いた彼方くんは、私だけのものだから。


ふ、と小さく息をはいて、私は練り消しゴムを手に取った。

たった今描いたばかりの彼を、丁寧に消していく。


実物ではない絵だとしても、彼を自分の手元に置くことはできない、自分の手に入れることはできないと思った。


もしも遥に見られたら。

この想いを知られたら。


考えただけて恐ろしい。


私は絶対に彼女を傷つけたくない。

だから、この想いは封印しなくちゃ。


でも、時々、想いが溢れ出してどうようもなくなることがある。

そういうときには、こうやって彼を描いて、束の間の満足を噛み締めて、そしてまた彼を消すのだ。


真っ白になるまで。

この想いが跡形もなく消えるまで。