頭と身体が、別々になったみたいだった。


頭では、『何してるの』と呆れているのに、

身体が勝手に動いてしまった。


左手が相合い傘の左側の文字を消していく。

はじめに『か』、次に『る』、最後に『は』。

私は『はるか』を消した。


それから右手が、空白になった傘の下に文字を書いていく。

『とおこ』。

『かなた』という文字の左側に、そう書いた。


出来上がった相合い傘をじっと見つめる。

指の力が抜けて、チョークを落としてしまった。


高く鋭い音が鳴った。

その音で我に帰った。


私は左手の黒板消しをぎゅっと握りしめ、相合い傘をまるごと消した。


なんにもなくなった。

彼方も遥も遠子もいなくなった。


私は両手で顔を覆って床にしゃがみこむ。


「……ごめん……ごめんなさい、遥……」


唇の間から、嗚咽と一緒に呻き声が洩れた。


ごめんなさい、遥。

あなたのことを綺麗な心で応援できなくて、ごめんなさい。

汚い心であなたの名前を消して、自分の名前を上書きしてしまって、本当にごめんなさい。


彼方くんの隣にいたいと思ってしまって、本当に、ごめんなさい。


許して、遥。