何だろう、と見ていると、香奈は白いチョークで黒板の端に何かをかきはじめた。


「え、なになに?」

「うわ、懐かしい、それ!」

「きゃあ、やめてよ、恥ずかしい!」


遥が声をあげたので、気になって側に寄って見てみる。


そこに書かれていたのは、ハート形の下に三角形とそれを貫く縦線が入った絵、つまり相合い傘だった。

小学生の頃に流行ったな、と思い出した。

線の右側には『かなた』、左側には『はるか』とかかれている。


「遥と彼方くんがうまくいきますように」


香奈が笑いながらそう言って、それから私を見た。


「ね? 遠子」


うん、と私は頷く。

変に返事が遅くなったりは、しなかったはずだ。


三人は相合い傘のことでひとしきり盛り上がったあと、「マック行って喋ろう」と言い出した。


「遠子はどうする?」


遥に訊かれて、私は「ごめん」と首を横に振る。


「文化祭の絵の仕上げがあるから」

「あ、そっか。そうだよね。がんばってね」

「うん、ありがとう」


三人は楽しそうに話しながら教室を出ていった。


一人だけ残った静かすぎる教室で、私はしばらく窓の外の夕焼けを見つめていた。


そして、気がついたときには、相合い傘の前にたっていた。

右手にチョークを、左手に黒板消しを持って。