私は7月の末、夏のある日に生まれた。
ふたりが海が好きだったことから、波が寄せるところを意味する『渚』。
けれどひらがなのほうが柔らかさが出るから、『なぎさ』。そう名付けられた。
両親は、大学教授の父と、女医の母。
人に物を教える父と、人の命を救う母は、ふたりとも立派な人だ。
だからこそ忙しいのは当たり前で、幼い頃からほとんどふたりが家に居ないのは当たり前だった。
家族ででかけた記憶は、一度だけ。あの海の日のことだけ。
それ以外は遊びに行くことはおろか、入学式や卒業式、授業参観などの学校行事にすらもまともに来てくれた記憶はない。
寂しかったけれど、働いて疲れているふたりを見るとワガママや甘えたことを言えるわけもない。
毎日自分のことは自分でして、テーブルに置かれたお金で過ごした。
そのうちいつしか、家族とのすごし方とか、親への甘え方とか、そんなことは忘れたまま気づけば中学生になっていた。
その頃から、妙に男子に好かれるようになった。
自分の顔を客観的に見ても、別にかわいいだとかキレイだとか思わない。二重の目と薄い唇の、いたって平均的な顔立ちだ。
けれどそんな私のどこがいいのか、『好きです』と告白されることが数度あった。
その中のほとんどは断って、流していた。
中には付き合った人もひとりふたりはいたけれど、好きという気持ちは湧かなくて、愛情のない付き合いはすぐに終わりを迎えた。
そんな私を見て、周りの女子は冷たい目を向けた。