「寝てただけですね」

『ニャァ~』



トラが生きていることに気付き、とりあえずと連れてきた動物病院。

そこで獣医から告げられたのは、ある意味とんでもないひと言だった。

驚きのあまりすぐに声が出ない私たちの代わりに、目を覚ましたトラの元気な鳴き声が響く。



「……え?だって、道路で横になってて……」

「恐らく昼寝してそのままだったんでしょうね。よかったですね、車こなくて」



細い目を下げて、人のよさそうな優しい笑顔を見せた獣医の「念のため検査してみますので待合室でお待ちください」という言葉に、私たちは待合室に戻る。

長椅子に座る私と新太、お互いの顔には苦笑いを浮かべて。



横長い椅子に腰を下ろすと、夜の動物病院ということだけあり、そこには自分たちしかおらず、静かな空気だけが漂った。



「昼寝って……、昼寝、昼寝かぁ……」

「まぁ、トラらしいっちゃらしいけど……」



安堵から脱力感におそわれ、涙はすっかり止まってしまった。

それは新太も同様のようで、気が抜けたようにぐったりとした声を出した。



「でもよかった……本当に死んじゃったらどうしようって思ってた」

「まぁそうだろうね。すごい大泣きしてたもんね」

「なっ!」



そう言われて思い出すのは、先ほどの大泣きしていた情けない自分。

にこ、と悪意なく笑って言う新太に、余計恥ずかしさは増す。