うそ
そんな、トラが死んじゃうなんて
さっきまで普通に生きていたのに
いつもみたいに、鳴いて、歩いてくれないなんて
「……やだ……」
やだ、いやだよ
「死んじゃ、いやだぁっ……!!」
名前を呼び続け枯れた声で叫ぶと、大粒の涙が溢れる。
私よりももっと泣きたいはずの新太は、言葉なく、右腕で私の頭を抱き寄せてくれた。
きっと自分が泣いてしまえば、ふたりとも立ち上がれなくなってしまうから。
だから新太は、悲しみを言葉に表すこともなく、こらえているのだろう。
だけど、その腕に込められる力が、悲しみを言葉にしなくても伝えてきた。
胸が、痛い
新太の痛みが伝わって、苦しい
その悲しみが、この胸の奥に突き刺さる。
「トラ……」
新太は私を右腕で抱き寄せたまま、空いている左手でトラの体をそっと撫でる。
はかないものを愛するような、その優しい指先は、不意にピク、と止められた。
すると新太は私の手をとり、トラの体に触れさせる。
ふわ、としたやわらかな毛の感触と、あたたかな体温がじんわりと伝う。
……まだ、あたたかい。
当然だよね。生きて、いたんだから。
指先から感じる、トクン、トクン、という小さな鼓動。
それとともに、『スー……スー……』と聞こえる薄い寝息。
そうだよ。こうして鼓動を鳴らして、息をして、生きて、いた……
……って、ん?