人目につかないよう、階段を使って下まで降りてマンションを出ると、ビュウッと冷たい夜風が吹いた。
久しぶりの、外のにおい。
冬になりだす、街のにおいだ。
マンションから少し行った先にある駅前の大きな通りは、クリスマスが今月末に迫っていることを知らせるように、イルミネーションや音楽で盛り上がっている。
眩しいくらいのにぎやかさから逃げるように、私は駅とは反対方向の薄暗い道路沿いをひとり歩いた。
この時間の家は、嫌いだ。
ふたりが帰ってきて、自分の存在が一気に嫌なものに変わるから。
これまで私を構うことなどなかった両親。
だけど学校に行かなくなって以来、ふたりの態度は少し変わった。
腫れものに触れるように、恐る恐る私の胸のうちを探るお母さん。
自分からは一切関わることなく、遠巻きに様子をみるだけのお父さん。
そんなふたりの様子から、毎日学校にも行かずに部屋の中に閉じこもっているだけの自分がおかしいのだと、実感させられる。
……普通に学校に通って、普通に暮らす、『普通の子』でいてほしかったんだろうな。
その普通から外れてしまった私は、これからどうしていけばいいのだろう。
どうやって、なんのために、なにを夢見て、生きていけばいい?
何時間、何日、何ヶ月と時間をかけて考えても、生きている意味は今日も分からないままだ。