「とにかく、もう一度家に帰ってみよう。暗くなってきたし、あとは俺ひとりで……」
そう新太とともに家の方向へ歩き出そうとした、その時。
不意に視界に入ったのは、住宅地の中にひっそりとある、人ひとりが通れるくらいの細い道。
「新太、ここ……」
「ん?あ、そういえばこんな道もあったっけ」
歩き慣れた新太ですらも見逃してしまうようなひっそりとした道に足を止めると、私たちは『もしかして』という期待を込めて入って行く。
ただでさえ細い道をふさぐように置いてあるゴミや荷物を避けながらその道を抜けると、そこは車が一台通れそうなくらいの道につながっていた。
きょろ、とあたりを見渡せば、道路の端には街灯に照らされるように横たわる茶色い背中が目に入る。
「トラ!」
思わず駆け寄りその姿をうかがうと、やはりそれはトラだった。
その体は横たわり、目を閉じたまま動かない。
「……トラ……?」
「トラ!おい、トラ!」
どちらの声にも反応しないトラに、私と目を合わせる新太はきっと同じことを考えているのだと思う。
「……う、そ……」
車にぶつけられたのか、塀から落ちてしまったのか。
その場にただ横たわるトラに、それまで散々駆け回り熱いはずの全身からはサーッと熱が引く。
足もとからは力が抜け、私はその場に膝をつき座り込んだ。