「……なにがあったの?ゆっくりでいいから、おしえて」



包むように抱きしめる力強い腕と、優しく問いかける声に、涙がいっそう溢れ出す。



ごめんなさい

情けなくて、強くなれなくて、こんな私でごめんなさい。



苦しさと悔しさと申し訳ない気持ちで涙が止まらなくなってしまう。

けれど、新太はこんな私のことすらも、こうして受け止めてくれるから。

その優しさに、心はぎゅっと包まれる。



「トラが……いなくなっちゃったの……」

「トラが?」

「私が、強く怒っちゃって……びっくりして、窓から飛び出して……ずっと探してるんだけど、いないのっ……」



子供のように嗚咽まじりで必死に伝えると、新太は抱きしめたまま、「そっか、よしよし」と私の頭を優しく撫でる。



「ごめんなさい、私のせいで……トラがっ……」

「なぎさのせいじゃないよ。窓開けっ放しだったのは俺の不注意だし、あいつも弱虫だから。ちょっと怒られるとにすぐパニックになっちゃうんだよね」



決して私を責めることのないその言葉は、穏やかで優しい。



「ひとりでよく探し回ったね。じゃあここからはふたりで探そう」

「見つかるかな……大丈夫、かな」

「大丈夫。だから、行こう」



『大丈夫』

そう言い切ってくれる言葉に、安心する。

それがたとえこの場しのぎの嘘だとしても、こんなにも愛しい嘘はないと感じられた。