「なぎさ?」



不意に名前を呼ばれて、ふと我に返る。

声の方向を見れば、廊下の端にはちょうど帰ってきたところだったのだろう新太が、スーパーの白い袋を右手に持ちこちらを見ていた。



「どうしたの?なんで泣いて……?」



新太は事態が全くわからない、といったように困惑した顔を見せる。



新太に助けを乞うなんて、今朝あんな態度をしておいて、都合がいいと思われるかもしれない。

けど、トラを探すために、私ひとりの力ではどうにもならないのなら、余計なことを考えている暇はない。

……頼ることを、しよう。



「……あ、らた……」



どうしたらいいかがわからないの

トラが、見つからないの

私にはなにもできなくて、こんな自分が情けなくて、かっこわるい。



頼るしかできない、悔しさ。

だけど、頼れる人がいることに、なによりも心強さを感じられる。



「っ……たす、けてっ……」



涙で詰まる声から、精いっぱいしぼり出したひと言。

その言葉に、新太は手にしていた袋を放り投げるとこちらへ駆け寄り、私をぎゅっと抱きしめた。