すると、突然響いたガチャン!という音に、ふっと我に返った。

足もとを見れば、先ほどまで手にしていたお皿が床に落ち、せっかくのオムライスもグチャグチャに散らかってしまっている。

ぼんやりとしているうちに手から力が抜けていたようで、お皿を床に落としてしまったらしい。



「あ……やっちゃった」



割れたお皿と、散らかったオムライス。それらにト興味を示すように、トラは近付いてくる。



「ダメだよトラ、向こう行って」



人間の食べ物を食べてしまうことを避けたいのはもちろん、割れたお皿の破片が足にでも刺さったら大変だ。

けれど当然、猫であるトラにはそんなことはわかるわけもなく、落ちているごはんの香りに引き寄せられ、その足は小さなかけらを踏んでしまいそうになる。



あっ……危ない!



「トラ!!向こう行ってってば!!」



焦る思いと先程までの不安定な気持ちからつい声を荒らげると、トラはビクッと跳ね、その場から台所のテーブルの上に逃げた。

その丸い目は、怯えたように私を見て。



あ……まずい、怖がらせたかもしれない。

そういえば、と『えらいっていうか、ビビりなんだよねぇ』と以前新太が言っていたトラの性格を思い出す。



「トラ、びっくりさせてごめんね。こっちにおいで」



そう精いっぱい優しく言って手を差し出す。

ところが、私の顔つきはいつもと違って見えるのだろうか。知らない人に対して怯えるように、トラはじりじりと窓の方へ近付く。



そして「あっ」と思った瞬間、わずかにひらいていた台所の小さな窓から、外へ飛び出して行ってしまった。