「トラ……おはよ」

『ニャー』



足もとにいるトラにそう声をかけると、不意に目に入ったのは台所のテーブルの上に置かれた、ラップがかけられたお皿。

よく見ればそれはオムライスで、きっと新太がお昼ご飯にと作り置きしておいてくれたものなのだと思う。



そのお皿を手に取り見つめれば、横には『少し出かけてきます。ごはんはきちんと食べること。 新太』と丁寧な字で書かれたメモが残されている。



新太、出かけているんだ。

もしかしたら、こうして私が部屋から出てきた時に気まずくないように少し距離を置いてくれているのかもしれない。



……なんて、考え過ぎかも。

けど、新太ならあり得るなんて、思えてしまう。

だって、こんな時にまでご飯を用意してくれているくらい、こんなにも優しい人だから。



嫌われたっておかしくないのに、どうしてこんなにあたたかいんだろう。

新太はこんなに想ってくれているのに、その優しさに触れるほど、弱いままの自分が嫌になる。



どんなに窓を広げても、私の世界は暗く小さく、動けないまま。

なんのために生きてきて、なんのために生きていくの。

どうして生きなければならないの。



理由なんて、わからないよ。

命を大切になんて、そんなの綺麗ごとだ。

私ひとりいなくなろうと、誰の世界も変わらない。



どんどん、どんどん、と

また心が沈んでいく。